2017年08月19日

剣と魔法と裁判所


著者:蘇之一行
出版社:電撃文庫
剣と魔法と裁判所

剣と魔法のファンタジー世界のガイナース王国。ダンジョンでは最強を誇る剣士も賢者も、街ではただの人。王国を統べるのは法律…弁護士が最強のジョブという世界。そんな国で「無敗」と名高いキール。彼に弁護してもらえれば、黒も白くなると言われており、その手法は、脅迫・ねつ造なんでもありの悪徳弁護士。それでも、裁判に「勝つ」ためには、一番頼りになる存在で…ある日、殺人の嫌疑をかけられた恩師を救いたいという、心優しい魔法使い美少女・アイリが、キールに弁護を依頼する。彼が出した条件は「300万」という法外な報酬。アイリは、その報酬を飲み、自らが弁護士の助手として働き、返却すると契約する。果たして二人の闘いは?

ファンタジー世界を舞台としていますが、舞台となるのは、ダンジョンではなく、法廷。倒すべき敵もモンスターではなく、訴訟相手とファンタジー世界である必然性は? と疑問に思うほどです。そこで扱われる訴訟は、満員ダンジョン(あまりにも人が多すぎて、身動きがとれない)での痴漢疑惑、武器商の脱税疑惑等々。現代社会でもよく見る訴訟が中心となっています。法律も似ているようですね。

ただ違うのは、この世界の裁判は即日結審が中心のようで、どうやら上訴という概念もないようです(描かれていないだけかも)そのためか、弁護士の弁論で、有罪無罪が決まるようです。

キールのやり口は、依頼人が「勝つ」ことのみを目的とした弁護(とは言わないな)で、その手段は選びません。最初に描かれる痴漢事件は、最初からえん罪のようでしたが、武器商脱税事件は、明らかに被告人がクロ。それを「武器には税金がかかるが、趣味嗜好品には、かからない」という法律の穴をついて、販売しているのは武器ではなく「SM道具」だというへりくつで勝訴します。それだけなら「口が達者な」弁護士ですが、キールはまず、アイリを使ってSM嗜好の人に対し実演。剣などで切りつけ、それを即座に魔法使いが癒やす…アイリの力では致命傷は与えられないので、安全(どこが?)という訳。もともとSM嗜好があった判事はもとより、アイリの扇情的な姿をみて「SMも悪くない」と思わせます。そこに、今度は孤児院の子供達から「おじさんはいい人!」という大声を上げさせる…そのために、武器商に孤児院へ多額の寄付をさせておく…その上で「もし武器として、重税を課していたら、寄付はできただろうか? その場合、その税金を給料としてもらっている公務員は、孤児院を助けられただろうか?」と迫ります。

キールの弁論で勝ててしまうのは、裁判官がアホじゃないか?と思うところが多いです。現代社会を舞台にすると、上記のような「新たな証拠」は裏付け調査されてから、結審するので、ファンタジー世界を舞台にしたのかなと思います。

やはり、裁判所を舞台にするのは難しいのでしょうね。いっそ「現代裁判とは全く違う」といことで、もっとファンタジー色の強い裁判シーンにしたほうが、ボロが出なかったような気がします。さらにキールの性格描写が…アイリ視線でいえば、キールは金の亡者で、自分中心な極悪人としか見えないと思います。それを他の登場人物が「過去にいろいろあったから」「根は優しい」とフォローする形ですが、唐突すぎていい人に見えない…

裁判で勝つためだったら「何でも利用する」という冷酷さをウリにしたいのか、それとも「本当は優しい」というギャップをウリにしたいのか? この巻からは見えてきませんでした。アイリもなにがしたいのか、はっきりしておらず、全体にどちらへ向かおうとしているのかがわかりずらい作品ですね。

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posted by あにあむ at 09:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 電撃文庫
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